河童の覗いたニッポン   妹尾河童著 新潮社 文庫版 1984年8月刊  1988年8月4刷

 この作品は昭和55年7月話の特集より刊行された。新潮文庫収録に際して週刊朝日緊急増刊(昭和58年10月25日)より「河童が覗いた『田中邸』」を納めた。ISBN4-10-131102-1 C0195
河童が覗いたニッポン 表紙

目 次

京都の地下鉄工事/"集治監"/長谷川きよしの周辺/盲導犬ロボットと点字印刷/『山あげ祭』/"裁判"(傍聴のすすめ)"鍵と錠"/『皇居』/走らないオリエント急行/人墨と刺青/CFづくりのウラ/旅するテント劇場/"刑務所"/番外篇「田中邸」
佐藤信が覗いた河童/和田誠が覗いた河童/中山千夏が覗いた河童

中山千夏が覗いた河童(部分紹介)-「河童の覗いたニッポン」より

河童は、今度は初めから公表を予定した作業を始めた。それが78年から「話の特集」に連載された「河童が覗いたニッポン」だった。これは同社から一冊にまとめて出版されたが、新たに「田中邸」(週刊朝日掲載)を加え、必要な改訂を行ったのが本書である。
公表を予定するようになっても、河童はやっぱり河童であった。あくまでも自分のアンテナが指す方へ足を向け、納得ゆくまで、時にはヘリコプターをかり出し、オトナなら遠慮しそうなところまで人り込み、どっさり材料を持ち帰る。それから机に向かって、またもや納得ゆくまで気の遠くなるような作業が続く。描写の精緻(せいち)もさることながら、得意の俯瞰図(ふかんず)の中では解説の文字までが遠近法に則(のつと)っている様を見て、「もう偏執狂ね」と友人たちはからかう。しかし彼らはちゃんと知っているのだ。それが狂気ではなく、自分が描いたものを眼にするであろう人間に対する、親愛の情いっぱいの伝達意欲、であることを。
広いニッポンの数ある事象のなかから、河童はごらんの十数点を選び、それをごらんのように記した。一見気まぐれな選び方は、一個のアンテナの存在を秘めている。一見技巧的な 
 描写法は、いつも意味のある視点を秘めている。その「アンテナ」や「視点」がどういうものかの判断は、読者にお任せしよう。河童は読者ひとりひとりに「どうだった?」と尋ねているのだから。

河童が覗いたニッポンより1頁紹介