田河水泡 たがわ すいほう
私のペンネーム
私の雅号は、田んぼの河の水の泡と書くので、どうしてそんなすぐ消えちまうようなはかない名前をつけたのだ、といぶかしく思う人もいるそうですから、ああそうか、と分かって頂けるように説明させて頂きましょう。
私の本名は、高見沢仲太郎、この名前では漫画家にふさわしくないので、ペンネームの必要を感じました。
そこで自分の苗字をローマ字で、TAKAMIZAWAと書いて、TA・KAで切りMIZで切ると残りがAWA。これを漢字に置き替えると田・河・水・泡となります。
初めはこれにルビを振って「たかみずあわ」と読んでもらうようにしたのですが、他人は薄情だから私の洒落(しゃれ)などに頓着(とんじゃく)せずに、みんなが「たがわすいほう」と読むから衆寡(しゅうか)敵せず、私は折れて自分でも「たがわすいほう」というようになっちまったのです。
この洒落の構造は、文字が対象、読み方は属性で二つに分かれるけれども、どっちに読んでも私の名ですから、多語一義(F3)ということになります。(「滑稽の構造」より)
のらくろ漫画集(2) 田河水泡 著 少年倶楽部文庫 講談社 1975年10月刊
滑稽の構造 田河水泡 著 講談社 1981年8月刊